ssicacaの会計士を目指す記録

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【企業法】機関ー「議決権の代理行使」

 

本日の学習論点はこちらになります。

企業法ー機関ー代理人を株主とする定款規定の効力

 

【条文学習】

 議決権の代理行使に関する条文は310条1項前段に「株主は、代理人によってその議決権を行使することができる。」と規定されています。ここから、株主の代理行使権限は株主の固有の権利であり、絶対的な権限であることがわかります。

 そもそも株主にとっては、株主総会での議決権行使は、経営に参画するための重大な手段です。そのため、株主は自ら出席して自ら議決権を行使することが求められています。しかし、株主総会に出席できない株主もいるため、そのような株主に対して、議決権行使の機会を保障する必要があります。310条1項前段では、代理人による議決権行使が可能であることを確認し、さらに、定款によっても代理行使を禁止できないことを定めているのです。

 ただし、日本の株主総会の実務では「代理人の資格として株主に限る」旨の定款を規定している会社が多いとのことです。果たして、そのような定款規定は認められるのでしょうか。

 

 問題を通じて見ていきましょう。

 

【問題】

 A社は、公開会社でない取締役会設置会社である。A社では、「株主が代理人による議決権を行使しようとする場合、その代理人はA社の株主でなければならない」とする旨の定款規定が定められている。

 令和元年6月28日に開催予定の定時株主総会において「Xの取締役選任の件」が目的とされた。ここで、A社の株主であるB株式会社は、Xが取締役に選任されることを阻止したいと考え、法務部長であるCを代理人として出席させるため、委任状を渡した。

 令和元年6月28日に、Bが本件株主総会に出席しようとしたところ、A社の社員は、本定款規定により議決権の行使代理人は株主に限られるとして、Cの株主総会の出席を拒否した。そのため、Cは議決権を行使することができず、本件総会において、Xは三瀬多数により取締役に選任されることが決議された。

 このとき、本件決議に納得のいかないB社は、いかなる手段により対抗することができるか論じなさい。

 

 

【解答例】

〈解決策の提示→問題提起〉

 B社は、代理人Cが本件総会への出席が拒否されたことについて代理人による議決権の行使を認めた310条1項前段に違反し、決議の方法の法令違反を主張して、決議取消の訴えを提起することが考えられる(831条1項1号)。ここで決議の方法に法令違反があるかという点について、A社は本定款規定に基づいて株主ではないCの出席を拒んでいるため、Cが議決権を行使できなかったことが違法であるか、本定款規定の効力及びA社による出席拒否の違法性が問題となる

〈原則論〉

 まず、本定款規定は有効であると解する。そもそも310条1項前段で議決権の代理行使が認められている趣旨は、会社の実質的所有者である株主に対して、議決権行使の機会を保障するものであり、合理的な理由に基づく相当程度な制限までも禁止するものではないからである。ここで代理人資格を株主に限定することは、株主総会のかく乱を防止し、会社の利益を保護する合理的な理由に基づくものである。また、A社は公開会社ではないので株主の変更が少なく、他の株主を探すことが比較的容易であることから、代理人を株主に限定することは相当制度の制限といえる。

〈規範定立→あてはめ〉

 次に、本定款規定の効力の範囲が問題となる。代理人資格を株主に限定することは、株主の重大な権利を制限していることから、本定款規定に基づき議決権の代理公使を拒める場合を限定的に解するべきである。そのため、会社の利益が害される恐れがなく、株主ではない代理人による議決権行使を認めないと事実上議決権行使の機会を奪うことになる特段の事情がある時には、本定款規定の効力は及ばないと解すべきである。

 ここで、法人株主であるB社がCを代理人とすることは、CがB社の一員として議決権を行使する以上、株主総会のかく乱の恐れはなく、法人株主自ら議決権を行使することが不可能であることから、特段の事情があるといえる。そのため、A社によるCへの出席拒否については、本定款規定の効力が及ばずに310条1項違反であるといえる。

〈結論〉

 したがって、本件総会には決議の方法に法令違反があり、B社は株主総会の日から3か月以内に、決議取消の訴えを提起することができる(831条1項)。

 

【分析】

 こちらの論点を整理すると以下の通りになります。

①大原則:代理人の議決権行使は絶対の権利

②原則:株主に限定する定款規定は有効

③例外:特段の事情がある場合は、定款規定は効力を有さない

 

上記の理由について整理しましょう。

①に関しては、条文学習の通りになります。議決権の代理行使に関する条文は310条1項前段に「株主は、代理人によってその議決権を行使することができる。」と規定されています。ここから、株主の代理行使権限は株主の固有の権利であり、絶対的な権限であるからです。

② 「代理人を株主に限定する」旨の定款規定は、合理的な理由に基づく相当程度の制限であるため有効となります。つまり、必要性・許容性の2観点から認められる制限ということになります。合理的な理由として、株主総会のかく乱防止があげられます。また、株主に限定することは甘受できる程度であるということも示しています。

③ しかし、特段の事情がある場合には、定款規定は効力を発揮できなくなります。つまり、定款規定に従う必要がなくなり、規定を強行した場合は法令違反となるのです。

 それでは、特段の事情とはどのようなものになるのでしょうか。⑴法人株主がその従業員を代理人とする場合、⑵病気中の個人株主が同族のものを代理人とする場合、は特段の事情に当たるという判例があります。このような場合には、株主総会のかく乱の心配はありません。そのため、株主の権利を制限する合理的な理由がなくなってしまうのです。

 上記のように、特段の事情がある場合には「代理人を株主に限定する」旨の定款規定は効力を有さなくなります。その場合にも代理人の議決制限を強行して株主総会の議決を行うと、310条違反となり、決議に法令違反が生じることとなります。

 

 本日は以上になります。