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【企業法】機関―株主総会決議の瑕疵~2015年過去問分析~

 

本日は、「株主総会決議の瑕疵」について学習します。

株主総会決議になんらかの不手際があった場合の話になります。

判例に基づいて結論を導くことが求められるので、正確な暗記が必要となる論点です。

それでは、条文から見ていきましょう。

 

【条文学習】

取消(831条)

 次の各号に掲げる場合には、株主等は決議の日から3か月以内に、訴えをもって当該決議の取り消しを請求することができる。

①招集手続・決議の方法に法令違反・定款違反があった・著しく不公正な時

②決議の内容が定款に違反するとき

③特別利害関係人が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がなされた場合

 

〈趣旨〉

 民法の原則からすると、株主総会決議に至るまでの手続き、決議内容に瑕疵がある場合は、その効力は無効とすべきとなります。しかし、瑕疵があるとはいえ、それらをすべて無効にすることはやりすぎとなってしまう場合があります。なぜなら、決議を前提として、会社の法律関係は構築されて行ってしまうからです。そのため、会社法は、事後的に株主総会決議を争う場合は、法的安定性の確保のために要件を設けるために、当該取消の訴えの精度を用意しています。

 

 

【問題文】2015年第2問

 乙社は公開会社であり、代表取締役はAであった。乙社は大手の機械メーカーであったが、近時海外メーカーとの競争が激しくなったため業績がかなり低迷し、経営者の責任を問う声が高まっていた。そうしたなか、乙社は平成26年6月末に定時株主総会を開催した。

この場合において、以下の問いに答えなさい。なお、問1と問2は独立した問題とする。

 

問1

 本券株主総会においてAの取締役再任議案に関し、主施説明を終えて質疑に入ったところで、長年乙社の株を保有している株主Bが、Aに対して再任後の乙社の業績改善に向けたA自身の考えについて質問した。しかし、Aは正当な理由なく一切の説明を拒否した。そして、本件株主総会の議長であったAは、その他の株主からの質問を受け付けることなく審議を打ち切り、直ちに採決に入った。会社側代理人に選出されていた委任状による議決権行使分も考慮したところ、本件議案を承認する決議が成立した。

 平成26年8月上旬に、本件株主総会を欠席していた株主Cは、本件決議に会社法上の瑕疵があると考え、本件決議の効力を争うことにした。

 Cは会社法上いかなる根拠に基づき、どのような主張をすることができるか。

 

問2 

 本券株主総会において議決権を行使することができる株主の総議決権数の7割を保有する株主らに対し、招集通知が行われていなかったという事実が平成26年11月に発覚した。そのため、招集通知を受けなかった乙社の株主Dは、本件株主総会の招集手続における瑕疵を主張し、本件株主総会の決議の効力を争う訴訟を提起することにした。

 Dは会社法上いかなる根拠に基づき、どのような主張をすることができるか。

 

 

【解答例】

問1

 Cは、株主総会決議の取り消しの訴え(831条1項)を主張することが考えられる。株節総会決議の取り消しについては、法的安定性を確保する要請から、決議取消事由が存する場合に、株主等が株主総会決議の日から3か月以内に訴えにより主張できる。

 まず、決議取消事由について検討する。本件決議では、Bからの質問に対して、Aの説明がないまま採決が行われている。ここで、株主が議題について質問し、必要な説明を受けることができるのは、会議体の一般原則として当然であることから、取締役は、株主総会において、株主から特定の事項について求められた場合は、質問の内容が拒絶事項に該当しない限り、当該事項について必要な説明をしなければならない(314条)。そのため、Aが正当な理由なくBの質問を拒否することは許されず、決議方法に法令違反(831条1項1号)が存するといえる。

 次に、提訴要件について検討する。株主総会決議取消の訴えの制度は、株主総会の公正を確保するためのものであり、株主は、株主総会の手続が全体として適正に行われることについて正当な利益を有していることから、本件株主総会を欠席しているCも提訴権者として認められる。また、Cは本件決議の効力を争おうとしている時点では、株主総会決議の日から3か月が経過していない。

 以上より、Cは本件株主総会決議の取り消しの訴え(831条1項)を主張することにより、本件決議の効力を争うことができる。

 

問2

 Dは、株主総会決議の取り消しの訴え(831条1項)または株主総会決議不存在の訴え(830条1項)を主張することが考えられる。しかし、前者は株主総会決議の日から3か月以内という提訴機関を経過しているため主張することができない。よって公社の主張を検討する。

 株主総会決議不存在確認の訴えは、その瑕疵が著しく、決議の存在を法的に評価できないと認められる場合に提起できる。本問では、総議決権数の7割を保有する株主らに招集通知漏れがあり、株主総会の招集手続を定めた299条1項への違反が著しいものであるといえる。

 以上より、Dは株主総会決議不存在確認の訴え(830条1項)を主張することで、決議の効力を争うことができる。

以上

 

【出題趣旨】監査審査会公表 

 本問は、株主総会における取締役等の説明義務および招集通知の意義等についての理解を問うものである。問1では、取締役等の説明義務の意義について、その例外となる拒絶事由とともに説明することが求められている。また、株主総会決議取消の訴えの意義と取消事由等に関する基本的な理解が問われている。問2では、本問の事案に関する問題点の的確な分析を踏まえつつ、株主総会の招集通知の趣旨や株主総会決議不存在確認の訴え等を検討することが求められる。

 

【分析】

 問1のポイントは①取消の訴えの3要件、提訴期間、提訴権者、提訴理由に触れること、②取消事由の掘り下げになります。①に関し、本問では、提訴権者が問題となります。欠席した株主が「訴えの利益」を有しているかを記述することが求められます。②に関し、本問では、代表取締役の説明義務違反が法令違反となり、取消事由となります。その際に、説明義務の趣旨を含めて記述することができれば加点になりそうです。

 問2のポイントは2点です。①まずは取消の訴えの可能性を探ること、②招集手続の瑕疵の程度の認定。本問では、①結論として「決議不存在確認の訴え」を提起することになりますが、まずは取消の訴えを記述することにより、不存在確認の訴えしか手段がないという点に説得力を持たせることができるのです。余裕があればぜひ触れておきたいところです。②本問では、総議決権で7割の株主に招集通知が送られていません。これは非常に大きな手続上の瑕疵と言えるでしょう。一般的には、半数で不存在確認の訴えのベンチマークと考えていいでしょう。このあたりは、暗記しておくか、そうでなければセンスに頼ることになるでしょう。

 

それでは、本日はこの辺で失礼します。