【企業法】機関ー利益供与の禁止~2010年過去問分析~
本日は、利益供与に関し学んでいきます。
該当する条文は以下の通りです。
「株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならない(120条1項)。」
【利益供与とは】
それでは、利益の供与とはどのようなものになるのでしょうか。
利益供与の最も簡単なイメージは、総会屋対策となります。
総会屋に株主総会を荒らされないように、ということで総会屋に金品を渡してしまうこと、これが利益供与の最たるものです。
こういったことが行われると、会社財産が浪費されることとなり、会社経営の健全性が損なわれます。
もともとは総会屋対策の条文だったようですが、総会屋の脅威は以前のようなものではないようです。
現在では、総会屋対策ばかりでなく、不公正な経営を取り締まる役割も果たすようになっています。
例えば、会社が特定の株主の権利行使を抑止しようとして、金品を授受するような場合です。
これは、株主権の行使を経営陣に都合のいいように操作することを防ぎ、会社経営の公正性を確保するためのものです。
まとめると、利益供与の禁止の趣旨は、会社経営の公正性・健全性を確保することにあります。
そして、これに違反すると、総会屋のような金品をもらった人、そして渡すことに関与した取締役も罰せられてしまうという内容になっています。
それでは、過去問を見てみましょう。
利益供与の責任と訴えの代表 2010年_第2問_問題1
【問題文】
乙社は、公開会社ではなく、取締役会設置会社かつ監査役設置会社である。乙会社は、単元株制度を採用しておらず、また乙会社の代表取締役はAのみである。乙会社の取締役であるBは、株主Cに対し、株主の権利の行使に関して、乙会社の計算において500万円の利益を供与した。この利益の供与は、Bの独断で秘密裏に行われたものでありm取締役会決議にも株主総会決議にも基づくものではなかった。上記の事実は、従業員の通報を受けた監査役Dの調査により発覚した。
乙会社が財産を回復するために、乙会社のどの機関が、BまたはCに対し、どのような会社法上の措置をとることができるか検討しなさい。
【解答例】
〈原則論ー利益供与の禁止趣旨〉
株主会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならない(120条1項)。これは、会社財産の浪費を防止し、会社経営の健全化を図るものである。本問では、株主Cに対して、株主の権利の行使に関して、乙会社の計算で、利益の供与が行われているため、120条1項が禁ずる利益の供与に該当する。
〈株主Cの責任〉
120条1項に違反した利益供与を受けたCは、乙会社に対して500万円の返還義務を負う(120条3項前段)。Cが当該義務を履行しない場合には、乙会社の業務に関する裁判上または裁判外の権限を有する代表取締役であるA(349条4項)が、乙会社を代表して、裁判外で支払いを請求する。また、それでも義務が履行されない場合は、Aが、乙会社を代表して、Cを被告として訴えを提起することができる。
〈取締役Bの責任〉
120条1項に違反した利益供与を行ったBは、乙会社に対して500万円の支払い義務を負う(同条4項)。当該責任は無過失責任であり(同条4項但し書きかっこ書き)、総株主の同意がなければ免除されない(同条5項)。Bが当該義務を履行しない場合、Aが、乙会社を代表して、裁判外で支払いを請求する。また、それでも義務が履行されない場合には、bを被告として訴えを提起することができる。この際、監査役設置会社である乙会社を代表するのは、馴れ合い訴訟を防止する趣旨から、監査役Dとなる(386条1項1号)。
【出題の趣旨】監査審査会公表
株主の権利行使に関する利益供与の禁止について、その基礎的な知識や制度の趣旨について問うとともに、違反行為に伴う責任について、責任追及の具体的方法、とりわけ株主代表訴訟の問題についての理解を問うものである。利益供与禁止規定の内容と会社自身による請求がどの機関によってなされるかを検討することが求められる。
【分析】
本問は、利益供与に該当するという点については、所与の問題となっており、利益供与の該当性の判断は問題になっていませんでした。しかし、その前段として利益供与の禁止の趣旨、後段として、利益を受けたもの・取締役の責任と追及方法を記述することが求められています。趣旨や条文指摘はここぞとばかりに入れていくべきですね。
本問はぱっと見そんなに難しくはありません。120条に行きつけば、責任を両者が負っていることも書きやすいです。
しかし、この問題のいやらしい点は「乙会社のどの機関が」という聞き方をしていることです。解答例では責任追及の方法として、裁判上の行為を最後に書いています。つまり、裁判を通さない請求に触れているのです。まずは、裁判を通さずに請求、それでもだめなら法廷で争う、ということですね。実際上はその通りなのでしょうが、試験の場でこれが書けるかは微妙です。だって条文に書いてないですからね(裁判外の行為なんだからそりゃそうだ)。それと付随して、裁判外の行為の権限を有しているのは、代表取締役である旨(349条4項)にも触れています。ここは差のつくポイントでしょうね。
上記の通り、株主Cに対する裁判外の請求・裁判上の代表・取締役Bに対する裁判外の請求は代表取締役が会社を代表すること、を記述しています。だからこそ、取締役Bに対する裁判上の代表者が監査役であることを対比的に記述することが可能になります。この比較の観点はなかなか気づくことが難しいのではと感じます。
意外と奥の深い問題でした。
このような問われたかもあるということですね。
それでは、本日はこの辺で失礼いたします。