5月13日の春秋 書き写し
春秋5月13日
「氷雨降る一日をこもりマスク縫ふウイルス網の世界の隅で」(小知和弘子)。先日の日経花壇にこんな単価があった。人と人との接触を抑えられた異様な日々。世界を覆う、その不条理を静かに詠んだ歌が胸を打つ。三十一文字の文芸の、なんとしたたかなことか。
いま新聞などの歌壇俳壇には、この歴史的厄災にまつわる投稿が殺到している。とりわけ短歌は時代を映しやすいから、どのメディアでも「コロナ詠」が全盛だ。「長嶋茂雄さんと握手したから洗はないなつかしきかな 泡を立てつつ」(唐木よし子)。読売歌壇に載った軽やかな歌にも、一変した社会への嘆きがにじむ。
苦痛を生々しく詠んだ作品も多い。朝日歌壇で目を奪われた一首は「新コロナ感染者担当のミッションを『赤紙』と呼ぶ医療従事者」(木村泰崇)。しばしば戦争にたとえられるウイルスとの戦いだが、医療現場の過酷さこそ戦争そのものだと気づかせる歌である。今度の疫病はすでに、世界で30万近い数の命を奪った。
それでも、明けない夜はない。イラストレーターのタナカサダユキさんが、SNSで披露した歌をご存じだろうか。「しばらくは 離れて暮らす コとロとナ つぎ逢ふ時は 君という字に」。漢字の「君」を分解すると、なるほど「コ」「ロ」「ナ」の3文字。見事なユーモアのその先に、希望の灯がまたたいている。
なんと素敵な。
コロナ疲れが叫ばれる中で、文章のプロはこの短い文章の中で、警鐘を鳴らすだけでなく、希望も見せてくれる。
ほっこりしました。