ssicacaの会計士を目指す記録

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【書評】春秋5月12日

日経新聞「春秋」5月12日

 「われわれの文明は、印刷された書式の魔力にとらわれている」。「マネジメントの発明者」といわれるピーター・ドラッカー氏は、主著の「現代の経営」(上田淳生訳)でこう書いている。文書の定型な書き方を規範とみなし、柔軟さが失せる様子を批判したものだ。

 よくある間違いは、報告や手続きを上からの管理の道具に使うことだも指摘している。工場長は自らの死後地には必要のない情報も集めて本社に知らせるようになる。現場の社員が報告書の作成に時間をとられ、本来の仕事がおろそかになった保険会社の例も挙げている。無益な作業が組織全体で増殖していく愚かしさだ。

 緊急経済対策に盛られた給付金も助成金も、厳格な管理を目指すあまり、手続がいたずらに煩雑になっていないか。極め付きは従業員に休業手当を支払う企業への雇用調整助成金だ。書類に記載する項目が73もあった。減らした後も38にのぼる。経営者は申請に費やす時間を新規事業の思案にでも使いたいところだろう。

 手続きが「アマゾンのジャングル」のようにはびこっていた組織が、窒息しそうな状況を打開した例をドラッカー氏は紹介している。あらゆる報告を2か月廃止し、どうしても必要なものだけ復活させることにした。すると報告の4分の3は不要だったという。「現代の経営」は官公から0年以上たつ。今なお示唆に富む。

  厳格な手続→「公正性の確保」と「スピード感」という命題は調和が難しいですね。

会社でいうと、報告不要なカルチャーは、ベンチャー的思想というか、イケイケどんどんな社風でこそ発揮されると思います。新興企業では、人の目が届きやすいという要因もあり、厳格な手続きよりも業務拡大のほうが優先される場合が多いからです。一方で保守的な大企業では、自分のあらを残さないようにすることが重要になりがちです。できるだけ公正な評価をしようとすると、大きな業績よりも手続の瑕疵が目立ってしまいますからね。

 さて、本記事では行政手続きの簡素化・スピード重視を示唆されています。たしかに、危急の経営者にとって、書類作成にかかる時間がもったいないものだという主張はよくわかります。どれほどの記載項目があるのかわかりませんが、項目についてエビデンスを要求されるとしたら、時間的、作業的負担が大きくなるのは間違いありません。

 しかし、いたずらに行政手続きを簡素化していいかと言われると、私は違うと思います。行政手続きにミスは命取りになります。

 私の地元でも悲しい事件がありました。行政の手続きが形骸化してしまい、市民の資金が搾取され、使い込まれてしまいました。その資金が適正に使われていれば、と思わずにはいられません。10年近くたった今でもその資金は返って来ていないのです。

 そして、善意・悪意に関わらず、不正に加担してしまった人とそうでない人で、少なからず市民の間で分断が生じてしまいました。

 

 スピード感を重視することが、即時的に手続の形骸化につながるというわけではありません。しかし、拙速な対応では少なからずリスクは増すでしょう。

 

 今後、適正手続きとスピード感との両立といった課題に、行政ならびに我々は向かい合っていく必要があるのではないでしょうか。

 

 まずは自分の周囲から。

 

それでは、今日はこの辺で失礼します。