【企業法】登記「登記とその他の条文の関係」
今回は、登記の効力について学習します。
【条文分析】
登記の条文は908条にあり、1項で登記の「消極的公示力」・「積極的公示力」が、2項では「不実登記の効力」が規定されています。それぞれ以下のような意味合いになります。
「消極的公示力」:登記をしなければ、善意の第三者に対抗できない
→登記前の段階では、たとえ事実であっても主張できない
「積極的公示力」:登記をすれば、善意の第三者に主張できる
→登記が済んでしまえば、善意の第三者に対しても主張できる
「不実登記の効力」:善意の第三者に対抗できない
→嘘であっても取り消すことができない
ここで問題となるのが「積極的公示力」です。これは登記をしてしまえば、相手方に悪意が擬制されてしまうという非常に強大な規定です。つまり、相手方はなにも知らなくても保護されないことになってしまうのです。取引のたびに、取引相手はわざわざ登記を調べて、相手方の代表者を確認しなければ安心して取引できないのでしょうか。
しかし、さすがにそれはやりすぎだろうということで、354条に表見代表取締役の規定があり、ここでは第三者は善意・無重過失であれば保護されるということになっています。つまり、908条1項では、登記がなされてしまっていれば、第三者は保護される余地がありませんでした。しかし、354条の適用がなされれば、特に落ち度のない第三者は保護されることになるのです。
さて、両者は会社法に規定されていますが、どちらが優先適用されるかの明文規定はありません。それについて、下記の設問を見ていきましょう。
表見代表取締役と商業登記
【問題文】
T株式会社は、公開会社ではない取締役会設置会社である。T社の創業者であるAは、代表取締役を退いた後,「取締役会長」の地位に就任している(T社は、この肩書の使用を黙認している)。Aは、「取締役会長」として、Xから商品を購入する売買契約を締結した。Xは、Aが代表権を有していないことに善意・無重過失である。なお。T社はAの退任登記を適時に行っていた。
この時、Xは、T社に対して商品代金を請求することができるか。
【解答例】
〈原則論→問題提起①〉
Aは代表取締役を退任しており、代表権を有していないことから、無間代表行為となる。そのため、本件契約の効力はT社に帰属せず、XはT社に商品代金を請求できないのが原則である。しかし、Aは取締役会長という名称を付しており、Xは、Aが代表権を有していないものと誤認して取引を行っていることから、354条を適用してXを救済できないだろうか。
〈354条のあてはめ〉
354条は、権利外観理論に基づき、取引の安全を図る規定であるから、その適用には①権利の外観、②帰責性、③相手方の信頼が必要である。本問では、①取締役会長という名称が付されており、②T社はこれを黙認している。また③Xは善意・無重過失であることから、354条を適用することができると解する。
〈問題提起②〉
ここで、T社は、Xの退任登記を適時に行っていることから、908条1項が適用されるかが問題となる。適用されると、354条の適用余地はなくなるが、法は、反復・迅速的に行われる商取引に対して逐一登記の閲覧を要求しているとは考えられないことから、354条は908条1項の例外規定であり、優先的に適用されるものと解する。
〈結論〉
以上より、354条が適用され、T社はXに対する責任を負わなければならないため、Xはt者に対して商品代金を請求することができる。
以上
【分析】
上記のように、登記の効力はあくまで原則論に過ぎず、例外規定があればそちらが優先すると考えられます(そうでないと例外規定のある意味がありません)。なかなか何度が高いように感じます。
また、このような問題では、問題提起が2度求められます。そのため、書き方が難しくなると思われます。解答のスペース・時間にも限界があることから、難易度は高めになることが予想されます。
定期的に振り返りたい問題ですね。
それでは、本日はここまでです。