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【企業法】資金調達ー現物出資と仮装払込~2018年第1問~

本日は、資金調達分野について学んでいきます。

 

【過去問の出題傾向】

 資金調達分野の出題歴を振り返ると、2013年に「新株発行の効力」が、2018年に「募集株式の発行手続・関係者の責任」が問われています。5年ごとに出ているので、これ通りにいけば、令和2年の出題可能性は高くはなさそうです。ただ、範囲に含まれている以上、対策は取らねばなりません。

 本日は2018年の第1問「現物出資と仮装払込」の出題を取り上げます。

 

【問題文】

 甲会社は、公開会社ではなく、取締役設置会社でもない。甲会社の株主はA、B及びCの3名であり、甲会社の代表取締役はA、取締役はBである。

 A及びBは、甲会社が募集株式の発行を行って資本金の額を増加させることで、会社の信用力を強化し、取引先を拡大したいと考えた。そこで、Aは甲会社の株主総会を開催し、①100株以上の募集株式を発行すること、②募集株式の払込金額を100万円とすること、③一部の募集株式については、Aが甲会社に対して有する貸付債権5000万円を出資の目的とし、本件債権の価額を5000万円とすること、④A及びBは各50名株の募集株式を引き受けること、を提案した。上記提案は、A、B及びCの全員の賛成によって可決・承認された。なお、①の株式の数は、甲会社の発行済み株式総数と同じであり、②の払込金額は、引受人であるA及びBにとって特に有利な価額ではなかった。

 次にA及びBは、上記株主総会終結後に相談して、⑤Aは本件債権のみを出資し、金銭の出資は行わないこと、⑥Bは出資を行うだけの十分な資産を持っていないことから、Aが甲会社の保有する現金5000万円をBに交付し、Bがその金員の全額を甲会社の出資の履行に充てることを決定した。

 この場合において、次の問題1・2に答えなさい。

問題1

 Aが本件債権を出資するために経るべき会社法上の手続について、本件債権の弁済期が到来している場合と、まだ到来していない場合とに分けて、説明しなさい。

問題2

 Bが上記⑥の出資の履行により取得した株式の払込について、B及びAは、甲会社に対して、会社法上どのような責任を負うか論じなさい。また、当該募集株式の発行の後、最初に開催される甲会社の株主総会において、Bは、上記⑥の出資の履行により取得した50株について議決権を行使することができるか論じなさい。

 

【解答例】

問題1

 Aが本件債権を出資することは、現物出資に該当する(199条1項3号)。現物出資では、目的財産が過大に評価されると他の株主との間で不公平になることや、会社債権者を害する恐れがある。そこで、現物出資財産の評価の適性性を確保するため、原則として、裁判所が選任した検査薬の調査が必要となり、そのための手続が必要となる(207条)。

 本件債権の弁済期が到来している場合は、本件債権について株主総会で定められた価額(199条1項3号)は5000万円であり、本件債権の負債の帳簿価額以下であるので、検査役の調査は要求されない(207条9項5号)。弁済期が到来していれば、会社の弁済額が確定しており、評価の適性性は確保できるからである。

 これに対し、本件債権の弁済期が到来していない場合は、同条項4号の専門家証明を受けない限り、前述した検査役の調査が必要となり、そのための手続が要求される。

 

問題2

 Bの出資は、Bに資金力がなく会社資金によって払い込みが行われていることから、出資の履行が仮装されている。募集株式の引受人が出資の仮装を行った場合、引受人は会社に対し、払込を仮装した払込金額の全額の支払いの責任を負う(213条の2第1項1号)。これは、既存株主が拠出した会社の財産が、出資の履行を仮装した募集株式の引受人へと不当な価値の移転が生じることになり、既存株主を害するからである。したがって、Bは、甲会社に対して、払込金額5000万円全額の支払いの責任を負う。

 次に、出資の履行の仮装に関与した取締役は、会社に対して当該引受人と連帯して、1と同じ支払い義務を負う(213条の3)。Aは、甲会社保有の現金をBに交付するという仮装に関与した取締役であることから、無過失責任を負う(213条1項ただし書きかっこ書き)。したがって、Aは甲会社に対して、Bと連帯して5000万円全額の支払い義務を負う。

 出資の履行を仮装した引受人は、1.又は2.の支払いがされた後でなければ、出資の履行を仮装した募集株式について、株主の権利を行使することができない(209条2項)。したがって、A及びBによる1.又は2.の支払い義務が履行されれば、Bは当該50株について議決権を行使することができるが、そうでない場合は議決権を行使できない。

以上

 

【出題の趣旨】監査審査会公表

問題1

 本件債権の出資は現物出資に該当するため、会社法207条の手続を検討することとなる。本件債権の弁済期が到来していれば、現物出資財産の価額(会社法199条1項3号)が当該債権にかかる負債の帳簿価額(券面額)と同額に定められるから、会社法207条9項5号により、検査役の調査は不要となる。弁済期が到来していない場合には、原則として同条の手続が必要となるので、検査役の選任・調査が必要となる。もっとも、専門家の証明を受けた場合には、手続は必要である。

問題2

 Bの払い込んだ金員は甲会社を出所とするものであり、Bは実質的に経済的な出捐をしたとはいえず、甲会社も経済的な給付を受けたということはできないから、出資の履行は仮装によるといえる。

 そのため、Bは会社法213条の2第1項1号に基づく責任を負う。また、Aは当該出資の履行の仮装に関与した取締役に当たり、そのことについて職務を行うについて注意を怠ったとは言えないから、Aも甲会社に対して責任を負い(会社法213条の3第1項)、BとAの責任は連帯する。

 このとき、会社法209条2項により、Bはその引き受けた株式について株主の権利を行使することが制限され、BまたはAが出資の履行責任を甲会社に対し果たすまでは、Bは50株について株主総会で議決権を行使することはできない。 

 

【分析】

 特に論点のない、条文指摘・説明型の問題でした。

 問題1ではデットエクイティスワップが問われています。細かいですね…。書けた人はどれだけいるんでしょうか。ただ、問われていることは細かいですが、原則論から書き始めるという姿勢で臨めば、わからないなりになんとかかけると思います。本問では、募集株式の払込として、現物出資が行われていることから、現物出資の弊害を論じることで、答案につながりと厚みを持たせられることができます。

 問題2は、問題文の読み取り、条文指摘ができるかがポイントでした。ただ、事案の読み取り、条文を探すことができれば、難しくはない問題だったのかと思います。条文の理解が試されますね。

 

本日は以上です。