ssicacaの会計士を目指す記録

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【企業法】設立ー不足額填補責任~2015年第1問分析~

本日は、設立_「不足額填補責任」についてです。

過去問を見ると、設立分野の出題は多くありません。そして、出題の際には、財産引受→発起人の責任が聞かれています。

それでは、2015年の過去問を通じて、書き方を学んでいきたいと思います。

 

【問題文】

 Aは首都圏に住んでおり、生まれ故郷のY県に代々引き継いだ土地(以下本件土地とする)を有しているが、本件土地は現在まで有効活用されていない。Aは、Y県に住む旧知のBから、地域創生を主たる目的とする事業を営むために甲株式会社を設立するので、本件土地を甲会社の事業のために提供してほしい旨を依頼された。

 これに対して、Aは依頼に応じてもよいが、他に本件土地を2000万円で取得したいという者がいるので、甲会社の設立に際して本件土地を売却する条件として、価格は同額とし、かつ迅速に手続を履践してもらいたい旨をBに要請し、Bもこれを了承した。またAとBは協議の結果、甲会社の発起人はA及びBの2名とし、A及びBが設立時発行株式の全部を引き受けること、そして甲会社には役員として取締役1名のみを置き、Bがこれに就任することに合意した。

 この場合において、下記の問いに答えなさい。

 

【問】

 甲会社は、専門家の証明および不動産鑑定士の評価を得たうえで、甲会社の成立後に本件土地を2,000万円で甲会社が譲り受ける契約に基づいて、甲会社の設立登記後に本件譲渡契約が履行された。その後、甲会社に助成金を支給していたY県が考課者に対して調査を行ったところ、本件土地の適正な価額は、本件譲渡契約の履行期日を含めてこの数年来1,000万円を超えるものではないことが判明した。Y県は、甲会社に対して会社法に規定に基づく是正を促した。

 このとき、甲会社は会社法上、誰に対してどのような義務の履行を求め、または責任を追及することができるか。

 

【解答例】

〈不足額填補責任〉

 株式会社の成立の時における引受財産の価額が定款に記載・記録された価額に著しく不足するときは、発起人および設立時取締役は、当該株式会社に対し、連帯して、当該不足額を支払う義務を負う(52条1項)。これは、資本充実の要請、株式引受人の出資の平等の要請から課される責任である。

 本問では、甲会社成立時の本件土地の価額が1,000万円以下であり、定款記載額の2000万円に著しく不足していることから、発起人A・Bは当該義務を負う。なお、財産引受の譲渡人であるAは無過失責任として当該義務を負い(同条2項柱書かっこ書き)、発起人であるBは無過失を立証しない限り当該義務を負う(同条2項2号)。また、証明者である専門家も、専門家証明の適性性を確保するため、無過失を証明できない限り、A・Bと連帯して当該義務を負う(同条3項)。Y県の調査結果を鑑みると、B及び専門家が無過失であるとは言えない。したがって、甲会社はA・B・専門家に対して当該義務の履行を求めりうことができる。

〈任務懈怠責任〉

 発起人A・Bに、甲会社の設立について過失による任務懈怠があり、それにより甲会社に損害が発生した場合は、甲会社はA・Bに対し損害賠償を請求できる(53条1項)。

 

【出題の趣旨】監査審査会公表

株式会社の設立に関する出題である。問2では設立に関する会社法上の責任が問われるとともに、関連条文である会社法52条以下の規定について要件・効果の適切な理解が必要となる。解答に際しては、責任主体を明確にし、発起人・設立時取締役・証明者を区別した記載が求められる。

 

【分析】

 前提条件の把握がポイントになりそうです。本問では、問題文「甲会社の発起人はA及びBの2名とし、A及びBが設立時発行株式の全部を引き受けること」から募集設立ではなく、発起設立であることが読み取れます。さらに、検査役の調査は経ていない、専門家の証明(加えて不動産鑑定士の評価)を得ています。

 そのため、素直に条文に当てはめて考えると、現物出資等を行った発起人A→無過失責任、その他の発起人B→過失責任、専門家→過失責任という結果になります。

 また、財産引受(28条2項)に該当するという点もポイントになります(現物出資で考えても結論は大きくは変わらないと思いますが)。

〈任務懈怠責任について〉

 条文指摘がポイントになりそうです。通常の役員任務懈怠責任は423条ですが、設立関係は50条付近にまとめられています。そもそも思いつくことができるかが問題ですが…

 

短答を乗り越えた論文生にとって、設立分野は知識的に難しい問題ではないと思います。問題文を丁寧に読めるか、条文指摘をできるかが分かれ目になりそうですね。

 

今回は以上になります。