ssicacaの会計士を目指す記録

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【企業法】設立ー「現物出資・財産引受・事後設立」~2015年第1問~

今日は企業法の過去問を通じて、設立の知識整理をします。

 

2015年 第1問 問題1 「財産引受の手続」

 

【問題文】

 Aは首都圏に住んでおり、生まれ故郷のY県に代々引き継いだ土地(以下本件土地とする)を有しているが、本件土地は現在まで有効活用されていない。Aは、Y県に住む旧知のBから、地域創生を主たる目的とする事業を営むために甲株式会社を設立するので、本件土地を甲会社の事業のために提供してほしい旨を依頼された。

 これに対して、Aは依頼に応じてもよいが、他に本件土地を2000万円で取得したいという者がいるので、甲会社の設立に際して本件土地を売却する条件として、価格は同額とし、かつ迅速に手続を履践してもらいたい旨をBに要請し、Bもこれを了承した。またAとBは協議の結果、甲会社の発起人はA及びBの2名とし、A及びBが設立時発行株式の全部を引き受けること、そして甲会社には役員として取締役1名のみを置き、Bがこれに就任することに合意した。

 この場合において、下記の問いに答えなさい。

 

【問】

 Bは、Aの要請に応えるために、本件土地の取得につき検査役による調査を回避したいと考えている。

 このとき、甲会社が成立後に本件土地を適法に取得するには、甲会社の成立前においって、会社法上どのような手続が行われなければないか説明しなさい。

 

【解答例】

 

〈財産引受に関する総論〉

 発起人 Bは、甲会社の成立を条件として本件土地を譲り受けることを約する契約を締結しようとしており、当該行為は財産引受(28条2号)に該当する。財産引受は、目的財産の過大評価により会社の財産的規模が害され、また、現物出資規制の潜脱手段として利用される恐れがあるため、変態設立事項として一定の手続が要される。

〈手続の概要〉

 まず、財産引受は、定款に記載しなければ、その効力は生じない(28条柱書)。次に、原則として裁判所選任の検査役調査が必要となる(33条1項2項)。しかし、財産引受を促進するため、会社の財産的基礎を害する恐れが少ない場合は、例外的に検査役の調査は不要となる(同条10項各号)。本件土地は、少額資産、有価証券ではないため、専門家の証明(同条項3号)により検査薬の調査を回避できる。

〈甲会社で必要となる手続〉

 以上より、甲会社が検査役の調査を回避して適法に本件土地を取得するためには、甲会社の成立前に一定事項を定款に記載し、専門家の証明及び不動産鑑定士の評価を受ける必要がある。また、この場合には、設立時取締役Bは専門家の証明が相当であることを調査する(46条1項2号)。

 

 

【出題趣旨】(監査審査会公表)

 株式会社の設立に関する出題である。問1では財産引受が問われる。回答に際しては現物出資や事後設立との相違に関する理解が欠かせない。また、変態設立事項として法定されている事項の定款の記載をはじめ、財産引受を行う際に履践すべき一連の手続に関する理解も試される。

 

【分析】

 本問のポイントは、まずは事案の分析において「財産引受」に該当することを指摘できるかだったようです。

 

「現物出資」「財産引受」「事後設立」の相違点

現物出資(28条1項):会社成立前に土地を出資する。

財産引受(28条2項):会社成立前に、成立後に土地の売買契約を締結する。

事後設立(467条1項5号):会社成立後に、土地の売買契約を締結する。

 

いずれも会社法の趣旨は「会社の財産的基礎の確保」にあります。

出資された財産が不当な評価額だった場合などで、財産的基礎が害されると、①他の株主との不公平が生じ、②会社債権者を害することにつながります。

財産引受に関しても、同様の弊害が生じるおそれがあり、さらに現物出資の潜脱に用いられる可能性があります。

そのため、会社法は変態設立事項について、検査役の調査を要求しています。

また、事後設立については、同様の弊害に加え、財産引受の潜脱に用いられる恐れがあるため、株主総会の特別決議を要求されています。

 

 これを踏まえて、問題文を読むと「Aは…甲会社の設立に際して本件土地を売却する条件として…」とあり、あくまで「出資」ではなく「売却」と明記しています。ここで「現物出資」には当たらないと判断できたかが一つのポイントだったようです。

 また、「甲会社の成立前において…どのような手続が…」とあり「成立前」の手続に限定しています。事後設立の対象範囲は成立後2年以内の契約締結なので、この文言で事後設立には該当しないと判断できます。(そもそもここで事後設立が頭に浮かぶ人はすごいと思いますが…)

 当該契約は甲会社の成立を条件として土地の売却の契約を締結しようとしており、これが財産引受に該当します。

 

今回は以上になります。