ssicacaの会計士を目指す記録

会計士を目指すブログです。

【企業法】設立ー見せ金

本日は、企業法ー設立の論点「見せ金」について学習しました。

「預け合い」と類似してますが、論文式試験の重要性は「見せ金」のほうが圧倒的に高いとのこと。

それでは、問題演習を通じて「見せ金」について見て行きましょう。

 

【問題文】

 発起人Aは、Bとともに募集設立により甲会社の設立を計画し、Aが4000万円、Bが1000万円を出資することにした。

 Aは手持ち資金がないため、乙銀行から4000万円を借り受け、それを払込取扱場所である丙銀行に払込み、出資の履行を行った。この後、甲会社は成立した。その成立後、間もなく、Aは甲会社から4000万円を借り入れて、乙銀行へ返済を行った。

 Aの行った払込の効力について論じなさい。

 

【解答例】

〈問題提起①〉

 発起人Aは、払込取扱場所において出資にかかる全額を払い込んでいる(34条1項2項)。しかし、Aは払込取扱期間以外の乙銀行から資金を借り受け、甲会社が成立して間もなくそれを引き出し、自己の借入金の返済に充てていることから、Aの払い込みは見せ金に該当するのではないか。

〈規範定立→あてはめ①〉

 見せ金に該当するかは、①会社設立後に借入金を返済するまでの期間の長短、②払戻金が会社資金として運用された事実の有無、③借入金の返済が会社の資金関係に及ぼす影響の有無を考慮して総合的に判断する。

 この点、Aの行った払込は①甲会社が成立して間もなく返済が行われ、②会社資金として運用されず、③その額が出資全体の8割にあたることから会社の資金関係に与える影響は重大である。したがって、Aの払い込みは見せ金に該当する。

〈問題提起②〉

 次に、見せ金に該当する場合の払い込みの効力について、明文の規定がないため問題となる。

〈規範定立→あてはめ②〉

 見せ金の効力は無効であると解する。なぜならば、見せ金は、当初より計画された払込を仮装するためのからくりの一環であって、これを有効とすれば、会社の財産的基礎を害するためである。

〈結論〉

 以上より、Aの行った払込は見せ金に該当して、無効となる。

 

【ポイント】

 見せ金は定義・効力が定まっていません。そのため、見せ金が論点になりそうな問題では、①見せ金に該当するか→「見せ金の要件」、見せ金に該当する場合は、②「見せ金の効力」を論じる必要があります。

 また、条文指摘に関しては、募集設立・発起設立に関係なく、発起人の出資履行責任の34条を用いることになりそうです。

 

本日は以上です。

 

【学習記録】会社法-資金調達「株主の請求」

今回は、新株発行の事前差止・無効請求について、見ていきましょう。

こちらは、対比の視点をもって取り組みたいところです。

 

2009年 第1問

【問題文】

 甲会社は、公開会社であり、種類株式発行会社ではない株式会社である。甲会社の株主Xは、同社の現経営陣と対立している。甲会社は、取締役会において乙に対して新株を発行することを決定した。この新株発行について、株主総会の決議はなされていない。この場合において、下記の問いに答えなさい。

 この新株発行の払込金額が引受人に説く有利な金額である場合、Xはこの新株発行をやめさせるために、甲会社に対して、会社法上どのような主張をすることができるか。また、Xがその主張をすることなく乙に対する新株発行が行われた場合、Xは、この新株発行の無効を主張することができるか。

 

【解答例】

〈総論〉

 公開会社であっても、既存株主の経済的利益を保護するために、有利発行の場合には、株主総会の特別決議が要求される。甲会社は、取締役会決議だけで、乙に対して新株を有利発行しようとしており、法令違反がある。また、有利発行がなされると株式価値が希釈化され、Xは、甲会社に対して、募集株式発行等差止請求権を行使して、新株発行をやめるように請求することができる。

〈規範定立〉

 上述のように、本問では取締役会決議だけで有利発行がなされている。これが、無効原因となるかが問題となる。この点、無効原因は、重大な法令・定款違反に限定されるべきである。ここで、公開会社では業務執行に準じて新株発行が行われるため、株主総会の決議も内部的な要件に過ぎず、外部的取引の安全に重点を置くべきである。また、株主は差止請求権を行使することができたはずである。したがって、本問では、重大な法令違反はなく、無効原因にはならないと解する。

 以上より、Xは新株発行の無効を主張することはできない。

 

 

 

【出題の趣旨】監査審査会公表

 本問は、公開会社における違法または不公正な新株発行(第三者割当)について、株主が会社法上どのような主張をすることができるかを問うものである。問1では、株主総会の特別決議を欠く新株の有利発行について、株主が、その効力発生前に新株発行の差止を請求できるか、また、その効力発生後に新株発行の無効の訴えを提起できるかを、検討することが求められる。

 

〈分析〉

 本問では、①事前の差止の可否、②事後の無効請求の可否が問われています。①は株主の利益保護の観点から、広く認められますが、②は取引安全を確保する観点から、厳格に判断されます。

 

 本日は以上になります。

【企業法】持分会社の基礎をまとめた

本日は、持分会社について学習します。

本試験ではなかなか出題がありません。

また、条文が多いという特徴もあるため、対策が取りにくい分野になります。出題の際にはハイレベルな戦いになることはあまり考えられない論点のため、基本的な知識を抑えて臨むことが重要になります。

それだけで及第点は超えるのではないでしょうか。

 

     
  株式会社 持分会社
特徴 株主は無個性 社員の個性を重視
所有と経営の一致(590条1項)
投下資本の回収方法 株式譲渡(127条) 持分の払戻(611条)
出資の払戻(624条)
責任 間接有限責任(104条) 無限責任社員
退社制度 なし あり
会社財産の払戻
社債権者の保護
厳格な規制 特段の規制なし
分配可能額規制 あり(461条1項) なし
違法配当の責任 あり(462条1項) なし
債権者異議手続 あり(449条1項) なし

それでは、本日は以上になります。

(表の挿入がうまくできずすみません)

【企業法】機関ー利益供与の禁止~2010年過去問分析~

本日は、利益供与に関し学んでいきます。

 

該当する条文は以下の通りです。

「株式会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならない(120条1項)。」

 

【利益供与とは】

それでは、利益の供与とはどのようなものになるのでしょうか。

利益供与の最も簡単なイメージは、総会屋対策となります。

総会屋に株主総会を荒らされないように、ということで総会屋に金品を渡してしまうこと、これが利益供与の最たるものです。

こういったことが行われると、会社財産が浪費されることとなり、会社経営の健全性が損なわれます。

 

もともとは総会屋対策の条文だったようですが、総会屋の脅威は以前のようなものではないようです。

現在では、総会屋対策ばかりでなく、不公正な経営を取り締まる役割も果たすようになっています。

例えば、会社が特定の株主の権利行使を抑止しようとして、金品を授受するような場合です。

これは、株主権の行使を経営陣に都合のいいように操作することを防ぎ、会社経営の公正性を確保するためのものです。

 

まとめると、利益供与の禁止の趣旨は、会社経営の公正性・健全性を確保することにあります。

 

そして、これに違反すると、総会屋のような金品をもらった人、そして渡すことに関与した取締役も罰せられてしまうという内容になっています。

 

それでは、過去問を見てみましょう。

 

利益供与の責任と訴えの代表 2010年_第2問_問題1

【問題文】

 乙社は、公開会社ではなく、取締役会設置会社かつ監査役設置会社である。乙会社は、単元株制度を採用しておらず、また乙会社の代表取締役はAのみである。乙会社の取締役であるBは、株主Cに対し、株主の権利の行使に関して、乙会社の計算において500万円の利益を供与した。この利益の供与は、Bの独断で秘密裏に行われたものでありm取締役会決議にも株主総会決議にも基づくものではなかった。上記の事実は、従業員の通報を受けた監査役Dの調査により発覚した。

 乙会社が財産を回復するために、乙会社のどの機関が、BまたはCに対し、どのような会社法上の措置をとることができるか検討しなさい。

 

【解答例】

〈原則論ー利益供与の禁止趣旨〉

 株主会社は、何人に対しても、株主の権利の行使に関し、財産上の利益の供与をしてはならない(120条1項)。これは、会社財産の浪費を防止し、会社経営の健全化を図るものである。本問では、株主Cに対して、株主の権利の行使に関して、乙会社の計算で、利益の供与が行われているため、120条1項が禁ずる利益の供与に該当する。

〈株主Cの責任〉

 120条1項に違反した利益供与を受けたCは、乙会社に対して500万円の返還義務を負う(120条3項前段)。Cが当該義務を履行しない場合には、乙会社の業務に関する裁判上または裁判外の権限を有する代表取締役であるA(349条4項)が、乙会社を代表して、裁判外で支払いを請求する。また、それでも義務が履行されない場合は、Aが、乙会社を代表して、Cを被告として訴えを提起することができる。

〈取締役Bの責任〉

 120条1項に違反した利益供与を行ったBは、乙会社に対して500万円の支払い義務を負う(同条4項)。当該責任は無過失責任であり(同条4項但し書きかっこ書き)、総株主の同意がなければ免除されない(同条5項)。Bが当該義務を履行しない場合、Aが、乙会社を代表して、裁判外で支払いを請求する。また、それでも義務が履行されない場合には、bを被告として訴えを提起することができる。この際、監査役設置会社である乙会社を代表するのは、馴れ合い訴訟を防止する趣旨から、監査役Dとなる(386条1項1号)。

 

【出題の趣旨】監査審査会公表 

 株主の権利行使に関する利益供与の禁止について、その基礎的な知識や制度の趣旨について問うとともに、違反行為に伴う責任について、責任追及の具体的方法、とりわけ株主代表訴訟の問題についての理解を問うものである。利益供与禁止規定の内容と会社自身による請求がどの機関によってなされるかを検討することが求められる。

 

【分析】

 本問は、利益供与に該当するという点については、所与の問題となっており、利益供与の該当性の判断は問題になっていませんでした。しかし、その前段として利益供与の禁止の趣旨、後段として、利益を受けたもの・取締役の責任と追及方法を記述することが求められています。趣旨や条文指摘はここぞとばかりに入れていくべきですね。

 本問はぱっと見そんなに難しくはありません。120条に行きつけば、責任を両者が負っていることも書きやすいです。

 しかし、この問題のいやらしい点は「乙会社のどの機関が」という聞き方をしていることです。解答例では責任追及の方法として、裁判上の行為を最後に書いています。つまり、裁判を通さない請求に触れているのです。まずは、裁判を通さずに請求、それでもだめなら法廷で争う、ということですね。実際上はその通りなのでしょうが、試験の場でこれが書けるかは微妙です。だって条文に書いてないですからね(裁判外の行為なんだからそりゃそうだ)。それと付随して、裁判外の行為の権限を有しているのは、代表取締役である旨(349条4項)にも触れています。ここは差のつくポイントでしょうね。

 上記の通り、株主Cに対する裁判外の請求・裁判上の代表・取締役Bに対する裁判外の請求は代表取締役が会社を代表すること、を記述しています。だからこそ、取締役Bに対する裁判上の代表者が監査役であることを対比的に記述することが可能になります。この比較の観点はなかなか気づくことが難しいのではと感じます。

 

意外と奥の深い問題でした。

このような問われたかもあるということですね。

それでは、本日はこの辺で失礼いたします。

【企業法】機関―株主総会決議の瑕疵~2015年過去問分析~

 

本日は、「株主総会決議の瑕疵」について学習します。

株主総会決議になんらかの不手際があった場合の話になります。

判例に基づいて結論を導くことが求められるので、正確な暗記が必要となる論点です。

それでは、条文から見ていきましょう。

 

【条文学習】

取消(831条)

 次の各号に掲げる場合には、株主等は決議の日から3か月以内に、訴えをもって当該決議の取り消しを請求することができる。

①招集手続・決議の方法に法令違反・定款違反があった・著しく不公正な時

②決議の内容が定款に違反するとき

③特別利害関係人が議決権を行使したことによって、著しく不当な決議がなされた場合

 

〈趣旨〉

 民法の原則からすると、株主総会決議に至るまでの手続き、決議内容に瑕疵がある場合は、その効力は無効とすべきとなります。しかし、瑕疵があるとはいえ、それらをすべて無効にすることはやりすぎとなってしまう場合があります。なぜなら、決議を前提として、会社の法律関係は構築されて行ってしまうからです。そのため、会社法は、事後的に株主総会決議を争う場合は、法的安定性の確保のために要件を設けるために、当該取消の訴えの精度を用意しています。

 

 

【問題文】2015年第2問

 乙社は公開会社であり、代表取締役はAであった。乙社は大手の機械メーカーであったが、近時海外メーカーとの競争が激しくなったため業績がかなり低迷し、経営者の責任を問う声が高まっていた。そうしたなか、乙社は平成26年6月末に定時株主総会を開催した。

この場合において、以下の問いに答えなさい。なお、問1と問2は独立した問題とする。

 

問1

 本券株主総会においてAの取締役再任議案に関し、主施説明を終えて質疑に入ったところで、長年乙社の株を保有している株主Bが、Aに対して再任後の乙社の業績改善に向けたA自身の考えについて質問した。しかし、Aは正当な理由なく一切の説明を拒否した。そして、本件株主総会の議長であったAは、その他の株主からの質問を受け付けることなく審議を打ち切り、直ちに採決に入った。会社側代理人に選出されていた委任状による議決権行使分も考慮したところ、本件議案を承認する決議が成立した。

 平成26年8月上旬に、本件株主総会を欠席していた株主Cは、本件決議に会社法上の瑕疵があると考え、本件決議の効力を争うことにした。

 Cは会社法上いかなる根拠に基づき、どのような主張をすることができるか。

 

問2 

 本券株主総会において議決権を行使することができる株主の総議決権数の7割を保有する株主らに対し、招集通知が行われていなかったという事実が平成26年11月に発覚した。そのため、招集通知を受けなかった乙社の株主Dは、本件株主総会の招集手続における瑕疵を主張し、本件株主総会の決議の効力を争う訴訟を提起することにした。

 Dは会社法上いかなる根拠に基づき、どのような主張をすることができるか。

 

 

【解答例】

問1

 Cは、株主総会決議の取り消しの訴え(831条1項)を主張することが考えられる。株節総会決議の取り消しについては、法的安定性を確保する要請から、決議取消事由が存する場合に、株主等が株主総会決議の日から3か月以内に訴えにより主張できる。

 まず、決議取消事由について検討する。本件決議では、Bからの質問に対して、Aの説明がないまま採決が行われている。ここで、株主が議題について質問し、必要な説明を受けることができるのは、会議体の一般原則として当然であることから、取締役は、株主総会において、株主から特定の事項について求められた場合は、質問の内容が拒絶事項に該当しない限り、当該事項について必要な説明をしなければならない(314条)。そのため、Aが正当な理由なくBの質問を拒否することは許されず、決議方法に法令違反(831条1項1号)が存するといえる。

 次に、提訴要件について検討する。株主総会決議取消の訴えの制度は、株主総会の公正を確保するためのものであり、株主は、株主総会の手続が全体として適正に行われることについて正当な利益を有していることから、本件株主総会を欠席しているCも提訴権者として認められる。また、Cは本件決議の効力を争おうとしている時点では、株主総会決議の日から3か月が経過していない。

 以上より、Cは本件株主総会決議の取り消しの訴え(831条1項)を主張することにより、本件決議の効力を争うことができる。

 

問2

 Dは、株主総会決議の取り消しの訴え(831条1項)または株主総会決議不存在の訴え(830条1項)を主張することが考えられる。しかし、前者は株主総会決議の日から3か月以内という提訴機関を経過しているため主張することができない。よって公社の主張を検討する。

 株主総会決議不存在確認の訴えは、その瑕疵が著しく、決議の存在を法的に評価できないと認められる場合に提起できる。本問では、総議決権数の7割を保有する株主らに招集通知漏れがあり、株主総会の招集手続を定めた299条1項への違反が著しいものであるといえる。

 以上より、Dは株主総会決議不存在確認の訴え(830条1項)を主張することで、決議の効力を争うことができる。

以上

 

【出題趣旨】監査審査会公表 

 本問は、株主総会における取締役等の説明義務および招集通知の意義等についての理解を問うものである。問1では、取締役等の説明義務の意義について、その例外となる拒絶事由とともに説明することが求められている。また、株主総会決議取消の訴えの意義と取消事由等に関する基本的な理解が問われている。問2では、本問の事案に関する問題点の的確な分析を踏まえつつ、株主総会の招集通知の趣旨や株主総会決議不存在確認の訴え等を検討することが求められる。

 

【分析】

 問1のポイントは①取消の訴えの3要件、提訴期間、提訴権者、提訴理由に触れること、②取消事由の掘り下げになります。①に関し、本問では、提訴権者が問題となります。欠席した株主が「訴えの利益」を有しているかを記述することが求められます。②に関し、本問では、代表取締役の説明義務違反が法令違反となり、取消事由となります。その際に、説明義務の趣旨を含めて記述することができれば加点になりそうです。

 問2のポイントは2点です。①まずは取消の訴えの可能性を探ること、②招集手続の瑕疵の程度の認定。本問では、①結論として「決議不存在確認の訴え」を提起することになりますが、まずは取消の訴えを記述することにより、不存在確認の訴えしか手段がないという点に説得力を持たせることができるのです。余裕があればぜひ触れておきたいところです。②本問では、総議決権で7割の株主に招集通知が送られていません。これは非常に大きな手続上の瑕疵と言えるでしょう。一般的には、半数で不存在確認の訴えのベンチマークと考えていいでしょう。このあたりは、暗記しておくか、そうでなければセンスに頼ることになるでしょう。

 

それでは、本日はこの辺で失礼します。

 

5月13日の春秋 書き写し

春秋5月13日

 「氷雨降る一日をこもりマスク縫ふウイルス網の世界の隅で」(小知和弘子)。先日の日経花壇にこんな単価があった。人と人との接触を抑えられた異様な日々。世界を覆う、その不条理を静かに詠んだ歌が胸を打つ。三十一文字の文芸の、なんとしたたかなことか。

 いま新聞などの歌壇俳壇には、この歴史的厄災にまつわる投稿が殺到している。とりわけ短歌は時代を映しやすいから、どのメディアでも「コロナ詠」が全盛だ。「長嶋茂雄さんと握手したから洗はないなつかしきかな 泡を立てつつ」(唐木よし子)。読売歌壇に載った軽やかな歌にも、一変した社会への嘆きがにじむ。

 苦痛を生々しく詠んだ作品も多い。朝日歌壇で目を奪われた一首は「新コロナ感染者担当のミッションを『赤紙』と呼ぶ医療従事者」(木村泰崇)。しばしば戦争にたとえられるウイルスとの戦いだが、医療現場の過酷さこそ戦争そのものだと気づかせる歌である。今度の疫病はすでに、世界で30万近い数の命を奪った。

 それでも、明けない夜はない。イラストレーターのタナカサダユキさんが、SNSで披露した歌をご存じだろうか。「しばらくは 離れて暮らす コとロとナ つぎ逢ふ時は 君という字に」。漢字の「君」を分解すると、なるほど「コ」「ロ」「ナ」の3文字。見事なユーモアのその先に、希望の灯がまたたいている。

 なんと素敵な。

コロナ疲れが叫ばれる中で、文章のプロはこの短い文章の中で、警鐘を鳴らすだけでなく、希望も見せてくれる。

ほっこりしました。

 

 

 

【書評】春秋5月12日

日経新聞「春秋」5月12日

 「われわれの文明は、印刷された書式の魔力にとらわれている」。「マネジメントの発明者」といわれるピーター・ドラッカー氏は、主著の「現代の経営」(上田淳生訳)でこう書いている。文書の定型な書き方を規範とみなし、柔軟さが失せる様子を批判したものだ。

 よくある間違いは、報告や手続きを上からの管理の道具に使うことだも指摘している。工場長は自らの死後地には必要のない情報も集めて本社に知らせるようになる。現場の社員が報告書の作成に時間をとられ、本来の仕事がおろそかになった保険会社の例も挙げている。無益な作業が組織全体で増殖していく愚かしさだ。

 緊急経済対策に盛られた給付金も助成金も、厳格な管理を目指すあまり、手続がいたずらに煩雑になっていないか。極め付きは従業員に休業手当を支払う企業への雇用調整助成金だ。書類に記載する項目が73もあった。減らした後も38にのぼる。経営者は申請に費やす時間を新規事業の思案にでも使いたいところだろう。

 手続きが「アマゾンのジャングル」のようにはびこっていた組織が、窒息しそうな状況を打開した例をドラッカー氏は紹介している。あらゆる報告を2か月廃止し、どうしても必要なものだけ復活させることにした。すると報告の4分の3は不要だったという。「現代の経営」は官公から0年以上たつ。今なお示唆に富む。

  厳格な手続→「公正性の確保」と「スピード感」という命題は調和が難しいですね。

会社でいうと、報告不要なカルチャーは、ベンチャー的思想というか、イケイケどんどんな社風でこそ発揮されると思います。新興企業では、人の目が届きやすいという要因もあり、厳格な手続きよりも業務拡大のほうが優先される場合が多いからです。一方で保守的な大企業では、自分のあらを残さないようにすることが重要になりがちです。できるだけ公正な評価をしようとすると、大きな業績よりも手続の瑕疵が目立ってしまいますからね。

 さて、本記事では行政手続きの簡素化・スピード重視を示唆されています。たしかに、危急の経営者にとって、書類作成にかかる時間がもったいないものだという主張はよくわかります。どれほどの記載項目があるのかわかりませんが、項目についてエビデンスを要求されるとしたら、時間的、作業的負担が大きくなるのは間違いありません。

 しかし、いたずらに行政手続きを簡素化していいかと言われると、私は違うと思います。行政手続きにミスは命取りになります。

 私の地元でも悲しい事件がありました。行政の手続きが形骸化してしまい、市民の資金が搾取され、使い込まれてしまいました。その資金が適正に使われていれば、と思わずにはいられません。10年近くたった今でもその資金は返って来ていないのです。

 そして、善意・悪意に関わらず、不正に加担してしまった人とそうでない人で、少なからず市民の間で分断が生じてしまいました。

 

 スピード感を重視することが、即時的に手続の形骸化につながるというわけではありません。しかし、拙速な対応では少なからずリスクは増すでしょう。

 

 今後、適正手続きとスピード感との両立といった課題に、行政ならびに我々は向かい合っていく必要があるのではないでしょうか。

 

 まずは自分の周囲から。

 

それでは、今日はこの辺で失礼します。