ssicacaの会計士を目指す記録

会計士を目指すブログです。

【読書感想】白いしるし 西加奈子 ★★★☆☆

読書感想書いてみようと思います。

f:id:taka107nori:20180912103704j:image

きっかけとしては友人が編集している雑誌にて

西加奈子特集をやってたことが大きいです。

その特集が面白かったので、

乗っかって西さん読み進めてみようと思いました!

 

特集の中でオードリー若林が言っていた「西加奈子は”途中の人”を笑わない。」という西加奈子評が響きました。

 

サラバ!!」に続き、西加奈子さん2冊目は「白いしるし」。

サラバ!!」を読んだときはとても感動しましたね。

 

私の好きな作家「瀬尾まいこ」さんとも優しさという共通項はありつつ、

簡単に救いを与えなかったり、正解を示さず、読者に委ねる点は

特徴的なのでは感じました。

 

そして本作「白いしるし」も若ちゃんの評する通り「途中の人を笑わない」内容でした。

 

ざっくりとあらすじを紹介すると、

 主人公「夏目」は32歳の独身女性。職業である画家としての才能はそこそこあるよう。しかし、伸び悩みも感じているようで、アルバイトと両立しなければ食べていけないというような状況。

 夏目は異性の親友「瀬田」を通して、運命の人である画家「まじま」と出会ってしまう。「まじま」の描く絵に衝撃を受け、その後も近づくにつれどんどん「まじま」に惹かれていく夏目。しかし、「まじま」には大事な恋人がいる。

 決して夏目だけのものにならない「まじま」。触れるたび、募る思いに痛みは増すばかり。夏目はどのように変わっていくのか。

といったストーリーです。

 

最も響いた箇所を引用します。

主人公「夏目」とその友人「瀬田」に恋する画廊オーナー「塚本美登里」の対話の場面です。

瀬田を独り占めしたい塚本は、瀬田を通じて持ち込まれる女性アーティストの作品に対し、嫉妬心を抱いてしまいます。

 

「わかります、それは。でも、私の店に持ち込まれる作品に関して、私のエゴで良し悪しを決めてしまうことに、恐怖を感じるんです。大袈裟だけど、その絵や作品の将来を決めてしまうことに、羞恥を覚えます。」

「でも、それはあなたが最初に決めたことやねんから、それでいいと思うんです。お店を開くときに、自分の好きなものだけ選ぼうって、決めたんでしょう。あなたはただ、何かを選んで、何かを選ばなかったことに、自分で責任を負わなければいけない。自分が、決めたんやって、それが自分の意見なんやって、揺るがず、思ってんとあかん。それだけを、強く持っていればいいと思うんです。」

「でも、恋愛をそこに持ち込むなんて、あまりにもエゴが。」

「描くことかって、究極のエゴです。筆を置く瞬間は、見てほしい、という願望からさえも離れているんです。ただ描きたい、と思って、描くんです。失恋の痛手を武器に、描くことだってあるし、嫉妬を糧にして描くことだってあります。ほとんど吐き出すときもある、本当に、一方的な作業なんです。でも、それが、作品として完成して、人の目に触れたときに、見る人のエゴによって、こちらのエゴを相殺してくれたりする。塚本さんのエゴは、必要なんです。それに、あなたは、それをエゴだと、きちんと言っているからいいと思うんです。自分のエゴにおいて、私はこの作品を好き、私はこの作品を嫌い、て。エゴなんて微塵もないふり、これは一般的な意見なんだ、という顔をして、作品を批評する人より、全然立派やと思うんです。」

 

画廊のオーナーとして、 客観的であらねば、客観的であろうとする塚本。

しかし、醜い恋心が邪魔をする。

そんな塚本の心情も夏目は肯定します。

自分の心、覚悟に従って、責任を持って行動すべき。

恥ずべきことは何もないと夏目は言います。

 

世界には「誰かのため」があふれていますが、

「自分のため」は恥ずべきことではない。

むしろその醜さを自覚しているからこそ立派だ、と。

 

この場面は物語の終盤なのですが、

最初から夏目はこう物事をとらえていたわけではないでしょう。

まじまと出会い、考え、傷つき、この考えに至ります。

まじまの人物像につき、夏目はこのように捉えています。

 

彼は、年齢に似合わない諦観のようなものを持っている気がした。それはほとんど老人のようだった。そして、物事の何もかもにおいて、自分を最も底辺に据えてから、考え始めるようなところがあった。自分が微塵も有用でない人間であるということを根底において、生きていた。彼がどうして、自分をそこまで軽んじるのかはわからなかったが、だからこそ、彼は小さなことをとても喜んだ。綺麗なものを見ると、それを慈しみ、咀嚼し、その感動に、飽きることがなかった。

 ある意味では、素敵な、綺麗な、生き方だなと感じます。

まぁ自分には程遠いので、こんな人が実在するのか疑問ではありますが…

根底は天才ファミリーカンパニー(二ノ宮知子)の「田中春」みたいだなぁと感じました。(キャラは全然違いますが。)

 

そんなまじまに、夏目は恋をします。

その後の夏目に関して、解説で栗田有起さんはこう評しています。

 

彼と、彼の描く絵に出会った彼女は、衝撃を受けた自分を瞬時に認め、飲み込もうと七転八倒をくりひろげた。みずからの根幹を揺さぶられるような経験をしたとき、向き合う勇気や気力に乏しいがために、そこから目をそらす選択肢もあったはずだ。いろんなことに忙しい大人には珍しくない、一種の処世術である。

 けれど、彼女の本能からくる正直さは、そんな怠惰を許さなかった。

 苦しみ、たたかい、無我夢中で咀嚼するうちに、彼女はみずからの「言葉」を持つに至る。

 

 賢い生き方ができない、不器用が過ぎる夏目ですが、無我夢中で、全力で立ち向かうからこそ

人生で大切なものを見つけるに至ります。

 

サラバ!!」でも主人公の姉、圷貴子は壮絶な道のりを経て、自分の生き方を見つけます。

しかし、一度見つけたからと言って、それは不変のものではありません。

変わっていくこともありなんです。

 

西さんの小説では、一般社会の正解を得ることが難しくなった人も描かれているようです。

しかし、だからこそ様々な生き方が肯定されている気がします。

 

自分の生き方は、与えられるものではない、自ら探し求めるもの。

見つかったと思っても、変わっていくもの。

動いて、考えて、自信をつけて、また傷ついて…そしてなにかが見つかる。

人生はそんなだから、道の途中でも恥ずかしがらなくていい。

そんな風に感じ取りました。

 

 いい本でした。