【読書感想】これならわかる新地方公会計 藤井邦明 ★★★☆☆
読書感想の2冊目はこれ。
先日、講義で「公会計」を扱ったので、復習がてらに読んでみました。
分かりやすさという点ではまずまずでしょうか。
目次や索引もありわかりやすいです。
企業会計の理論の部分は、初学者には厳しいのでは…
簿記の知識のない方には難しい内容かもしれません。
逆に簿記の知識なくても読めたという方は、相当の理解力がある方かと。
率直に、「公務員、大丈夫か…」という感想です。
複式簿記のない世界で、議員や職員のモラル任せで頑張っているようですが、
制度疲労はかなり進んでいます。
その最大の失敗例が夕張の破たんという印象です。
詳細は後述しますが、逆にビジネスチャンスというか、頑張る自治体とがんばれない自治体で差が明白になっていくんだろうなと感じました。
まずは、著者の藤井邦明さんの紹介から。
昭和28年生まれの65歳で、現在は会計士として福井で会計事務所を開いているようです。
神戸大学の経営学部を卒業後、福井県立大学の経営学研究科に進まれたようです。
得意領域は、中小企業や公会計のようで、これ以外にも本を出版されています。
大手の監査法人には在籍されなかったのでしょうか。
なんにせよ、地方でも活躍なさっているというのは励みになります。
では、内容に入ります。
執筆当初の2009年、地方公会計改革が起こりました。
新制度が必要となった経緯はざっくり以下の通りです。
①現状:地方公共団体の財政逼迫
↓
②不安:住民サービスの劣化、財政破たん
↓
③原因:時代遅れの予算・決算制度
↓
④改善策:新制度の導入
①、②は一般的な話なので割愛。
以下、③、④について解説します。
③時代遅れの予算・決算制度
ここが要点になります。
従来の制度は、単式簿記・現金主義によっており、大きく以下3点の問題がありました。
⑴財政の全体像が分かりにくい
⑵将来の計算ができない
⑶フルコストの情報が得られない
これだけでも問題なのですが、さらに具体的な問題としては、
・自治体間の比較がしづらい
・借金しても収入として認識される
・退職者が大量発生すると財政状態が悪化したように見える
などがあります。
こういった自治体運営に必要不可欠にも思える情報が開示されてきませんでした。
借金は将来の世代に任され、退職者への準備もまちまちで、その状況を説明する必要はありませんでした。
もちろん、こういった情報の直接的な開示がなくとも、
従来のデータから算出することなどは可能です。
情報開示しなくていいから対策しなくていいや、という考えや
そもそも対策の必要性を知らないといったこともありそうです。
対策は各自治体の議員や職員のモラルに任されていたのです。
④改善策:新制度の導入
そのような状況に対応するために、新制度である複式簿記の導入が決まりました。
ちなみに、1960年代から議論されていたようです(50年の時を経てやっと導入されました)。
2018年現在では、導入に当たり、全自治体で統一的な基準が公表されています。
上記の3つの問題点は解決に向かっています。
しかし、自治体によって進度はまちまちです。
東京都町田市のような先進的な自治体では、情報の整備にとどまらず
活用した市政が行われています。
まとめになりますが、
人口減少が進行し、税収の減少が確実な情勢の中
日本の地方は確実に衰退していくでしょう。
地方からの人口流入で、低い出生率をカバーしている首都圏の自治体も間接的に影響を受けていくはずです。
細りゆく財源を有効活用するためには、データが整備されていることは最低限の条件であるように思います。
住民の政治参加もこれからの自治体には必須だと思います。
その土壌の有無がこれからの自治体の淘汰の分岐点になっていくかもしれません。
終わり